誰がバットマンを殺すのか。

何回目になるのか分からないけどダークナイトを観て、バットマンについて考えを巡らせていた。

ダークナイト 特別版 [DVD]

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バットマンについて僕は確信しているのだけれど、彼は悪に勝利できないヒーローである。例えばスパイダーマンはそのシリーズの最終回に、悪役(ヴィラン)を打ち倒し、ヒロインと幸せな家庭を築く、みたいな話が可能だろうと思う。けれどバットマンは違う。バットマンは闘いの中に倒れる運命にあるヒーローだ。リタイアしたブルース・ウェインがプライベートビーチで肌を焼いている、なんてコマでシリーズが終わることは認められるワケがない。
DARK KNIGHT バットマン:ダークナイト(ケース付) (SHO-PRO BOOKS)

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となると、誰がバットマンを殺すのか。
バットマン:ザ・ラスト・エピソード (ShoPro Books)

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バットマン最凶の敵は、勿論ジョーカーだ。しかし彼がバットマンに勝利することは、絶対にない。ジョーカーがジョーカーであり続けるにはバットマンが不可欠であり、それはバットマンにとっても同じことだ。彼らは互いにとっての”鏡”であり、コインの裏表であり、彼らの殺し合いはアンパンマンバイキンマントムとジェリーのじゃれ合いみたいなものだ。
バットマン:キリングジョーク 完全版 (ShoPro books)

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ダークナイトが名作となったのは、彼ら二人の、ともすればコメディにもなりかねない殺し合いを、トゥーフェイスが象徴していたからだ。取調室でバットマンとジョーカーの顔に落ちる影、誘拐された二人が監禁された場所の明暗、困惑し辺りを見渡すハービー・デントの鼻の高い顔。これら全てがトゥーフェイスの誕生を暗示していた。彼はコインを投げる。コインが表裏どちらを上に落ちるのか、彼が決める。彼こそが二人の闘いに行き着くところまで行ってしまうという、コイントスという緊張感を生み出し、彼こそが勝者を、”お前は何者なのか”を告げるのだ。しかし、ダークナイトにおいても、バットマンは死ななかった。トゥーフェイスは死に、ジョーカーは二度と出てこない。では次回作において、ダークナイト以上の危機は可能なのか?*1

次回作、「The Dark Knight Rises」に登場する悪役はベインである。「コウモリを壊した男」だ。実はこのベイン、怪力と明晰な頭脳という程度のキャラクター付けしかなされていない比較的新しい悪役である。三部作の完結に、ノーランがどのような悪役として彼を描くのかには興味が湧くところである。間違ってもキャットウーマンとのラブロマンスにうつつを抜かしたバットマンを追い詰めるベイン、みたいな三文芝居は観たくもないのだけれど。

*1:ヒース・レジャーさえ亡くなっていなかったら、ハーレクインに全部賭けていた。彼女はジョーカーのために、ジョーカーの真意を知らずに、バットマンを殺すことが可能な悪役だ。